2026年10月01日

根管治療中に聞こえる「ピピピ」という電子音は、根管長測定器(EMR)という機器が、器具の先端が根の先端(根尖)に近づいたことを歯科医師に知らせる合図です。危険な処置ではなく、使用される電流もごく微弱です。
この記事でわかること
- 「ピピピ」という音の正体と、その音が鳴るしくみ・安全性
- 根管治療の流れと、「ピピピ」が鳴るのはどのタイミングか
- 治療中・治療後の痛みの見通し、受診の目安、通院回数について
本記事は根管治療に関する一般的な情報をまとめたもので、診断・治療方針や、痛み・治療期間の見通しは、実際のお口の状態を診たうえで歯科医師が個別に判断します。
効果や安全性を保証するものではありませんので、気になる症状がある場合は、かかりつけの歯科医院や近隣の歯科医師にご相談ください。
「ピピピ」の正体は根管長測定器(EMR)の電子音
根管治療中に口の中から聞こえる「ピピピ」という電子音は、根管長測定器(EMR)が発する音です。
この機器は、歯の根の内部にある管(根管)の長さを測定し、器具の先端が根の先端(根尖)に近づいたタイミングを歯科医師に知らせる役割を持っています。
歯の根の中にある根管は非常に細く、肉眼で直接確認することが困難です。
そのため、根管治療では器具をどこまで根管内に進めればよいかを、レントゲンや専用の機器を使って把握しながら治療を行う必要があります。
「ピピピ」という音は、その判断をサポートするための合図であり、トラブルや異常を知らせるサインではありません。
使われる電流はごく微弱なため、音が聞こえても過度に心配する必要はありません。

なぜ「ピピピ」と鳴るのか(根の先端に近づいた合図)
この「ピピピ」という電子音は、器具の先端が根の先端(根尖)へ着実に近づいていることを歯科医師へリアルタイムで知らせる合図です。
根管は太さが1ミリメートルに満たない箇所も多く、非常に細く複雑な形状をしています。
そのため、根管治療では、測定器の音とレントゲンなどの画像診断を手がかりに、器具をどこまで根管の奥へ進めるかを慎重に判断しています。
「ピピピ」という音が鳴ることは、いわば「あとどれくらいで根の先端に届くか」を教えてくれるナビゲーションのようなものと捉えると、イメージしやすいでしょう。
使われる電流はごく微弱で、痛みやしびれを感じることはまれ
根管長測定器で使われる電流はごく微弱なため、電気による痛みやしびれを感じることはほとんどありません。
「電気」と聞くと不安に感じる方もいるかもしれませんが、根の長さを測定するために必要な範囲のわずかな電流が流れる仕組みであり、一般的な治療の一環として広く使われている方法です。
ただし、感じ方には個人差があり、まれに違和感を覚える場合もあるとされているため、気になる場合は治療中に歯科医師へ申し出るとよいでしょう。
なお、心臓ペースメーカーなどの体内植込み型医療機器を使用している場合、機器への影響や誤作動を防ぐため、電気的根管長測定器の使用にあたり配慮が必要です。
治療前の問診時に必ず歯科医師やスタッフへ申し出てください。
根管長測定器(EMR)のしくみ ― なぜ音で根の長さがわかるのか
根管長測定器が音で根の長さを測れるのは、器具が根の先端に近づいた際に生じる電気的な変化を検知しているからです。
こうした仕組みを知っておくことで、治療中の機械音に対する漠然とした不安を和らげ、安心して処置を受けやすくなります。
日本歯内療法学会の情報によれば、こうした電気的根管長測定は、根管治療における根の長さの把握に広く用いられている方法のひとつとされています。
レントゲンなどの画像診断と組み合わせて使われることも多く、複数の方法で確認しながら治療が進められています。

電気抵抗の変化で根の先端を検知する
口唇に挟んだ電極と、根管内に挿入した細い器具(ファイル)が、体を介してひとつの電気回路を形成します。
器具の先端が根の先端(根尖)に近づくと、この回路のインピーダンス(電気抵抗)の変化を読み取り、あらかじめ設定された基準に達したタイミングで「ピピピ」という音や画面表示によって歯科医師に知らせる仕組みです。
レントゲン(エックス線)と併用して確認する
根管長測定器による測定は、レントゲンなどの画像診断と組み合わせて確認されるのが一般的とされています。
音だけに頼るのではなく、レントゲン写真で根の形や長さを事前に確認したうえで治療を進めることで、より正確に根の状態を見極めることができます。
こうした複数の方法を組み合わせた確認は、治療の精度を高める目的で行われているものです。
そもそも根管治療とは?なぜ必要になるのか
根管治療とは、虫歯が歯の神経(歯髄)にまで達してしまった場合に、歯髄を取り除いたうえで歯の内部を洗浄・消毒し、歯そのものをできるだけ残すことを目指す治療です。
削って詰めるだけの治療では対応できない段階まで虫歯が進行した際に必要となります。
「ピピピ」という音は、この治療の中で根の長さを測定する際に鳴るものです。
虫歯が神経(歯髄)に達すると根管治療が必要になる
虫歯が歯髄にまで達した場合、感染した歯髄を取り除いたうえで根管内を洗浄・消毒する根管治療が必要になります。
日本歯科医師会の情報でも、虫歯が神経に達した段階では神経の処置が必要になる旨が説明されており、放置すると症状がさらに進む可能性があるとされています。
つまり根管治療は、虫歯によって傷んでしまった歯の内部を整えることで、歯を抜かずに残すための選択肢のひとつと位置づけられています。
「抜髄」と「感染根管治療(再治療)」の違い
根管治療には、大きく分けて2つの種類があります。
- 抜髄:まだ神経が生きている歯髄を麻酔下で除去する治療のこと
- 感染根管治療:神経が死んで感染を起こした歯や、過去に神経を取った歯に再び細菌が感染した場合に、あらためて根管内を洗浄・消毒する治療のこと
どちらも、歯を残すことを目的とした治療である点は共通しています。
過去に根管治療を受けた歯で再び痛みや違和感が出た場合は、感染根管治療が必要になっている可能性があるため、自己判断せず歯科医院に相談することが望ましいでしょう。
根管治療の流れ ―「ピピピ」が鳴るのはどのタイミング?
根管治療は、検査・診断から始まり、麻酔、根管内の清掃・測定、洗浄・消毒、根管充填、土台や被せ物による仕上げまで、いくつかの工程を経て進められます。
「ピピピ」という音が鳴るのは、このうち根管内を清掃しながら長さを測定する工程です。
治療の流れをあらかじめ把握しておくことで、「今どの段階にいるのか」「あとどれくらいで終わるのか」といった見通しが立てやすくなり、不安の軽減につながることもあるでしょう。
ただし、以下で紹介する流れはあくまで一般的な目安であり、実際の手順や回数は症例や歯科医院によって異なります。各ステップの内容を順に確認していきましょう。

STEP1 検査・診断(レントゲン・CTで根の状態を確認)
治療の最初の段階では、レントゲンやCTを使って歯や根管の状態を確認します。
虫歯がどこまで進行しているか、根の形や本数はどうなっているかを把握したうえで、治療方針を検討する工程です。この段階では、まだ「ピピピ」という音は鳴りません。
STEP2 麻酔とラバーダム防湿(治療する歯を清潔に保つ)
必要に応じて治療対象の歯に麻酔を行い、痛みを抑えたうえで処置に入ります。
あわせて、ゴム製のシートで治療する歯を周囲から隔離する「ラバーダム防湿」が行われることがあります。
これは、唾液や口の中の細菌が根管内に入り込むのを防ぐための処置で、再感染のリスクを下げる目的で用いられています。
ラバーダムを使用するかどうかは、歯科医院や症例によって異なります。
STEP3 根管の清掃・拡大と長さの測定(ここで「ピピピ」)
細い器具を使って、根管内の感染した歯髄や汚れを取り除きながら、根管の形を整えていきます。
この工程で根管長測定器(EMR)が使われ、器具の先が根の先端に近づくと「ピピピ」という音が鳴ります。
STEP4 洗浄・消毒と薬の交換(複数回に分かれることがある)
根管内をきれいにしたあとは、薬液で洗浄・消毒を行い、感染を抑えるための薬を詰めて仮のふたをします。
根管内の細菌を十分に減らすためには、一度の処置では終わらず、数回にわたって洗浄・消毒と薬の交換を繰り返すことがあります。
通院が複数回に及ぶのは、このような丁寧な感染対策を行うためです。
STEP5 根管充填と、土台・被せ物による仕上げ
根管内の状態が整ったと判断されると、薬剤を使って根管内を隙間なく封鎖する「根管充填」が行われます。
その後、土台を立て、被せ物などで歯の形と機能を回復させる仕上げの処置に進みます。
ここまでの工程を経て、根管治療がひとつの区切りを迎える流れになっています。
根管治療は痛い? ― 治療中・治療後を冷静に理解する
根管治療は十分に局所麻酔を行ったうえで進められるため、治療中に強い痛みを感じるリスクは一般的に低く抑えられます。
治療後には一時的な痛みや違和感が出ることもありますが、多くの場合は数日から1週間ほどで落ち着いていくとされています。
とはいえ、痛みの感じ方には個人差があり、断定的な見通しを示すことはできません。
「痛いのではないか」と不安を感じる方もいますが、過度に恐れる必要がない一方で、「まったく痛みがない」と言い切ることもできません。
以下では、治療中と治療後の痛みについて、それぞれの特徴と注意点を解説します。
治療中の痛み(麻酔で抑えるが、強い炎症時は効きにくいことも)
治療は基本的に麻酔をして痛みを抑えながら進められます。
多くの場合、治療中に強い痛みを感じることは少ないとされています。
ただし、歯の周囲に急性の強い炎症がある場合などは、麻酔が効きにくいことがあります。
そのような場合には、追加の麻酔を行ったり、炎症が落ち着くまで治療の時期を調整したりといった対応がとられることがあり、いずれも歯科医師がそのときの状態を見て判断します。
治療中に痛みを感じた場合は、我慢せずにその場で歯科医師へ伝えることが大切です。
治療後の痛み(通常は数日〜1週間ほどで落ち着くことが多い)
治療後に、一時的な痛みや噛んだときの違和感が出ることがあります。
これは、根管内の処置による刺激で、歯の周囲の組織に一時的な反応が起きるためと考えられています。
こうした痛みは、通常数日から1週間程度で徐々に和らいでいきますが、痛みの感じ方や期間には個人差があるため、目安として捉えておきましょう。
こんなときは自己判断せず受診を(受診の目安)
治療後の痛みが長引いたり、強くなったりする場合は、自己判断で様子を見続けず、治療を受けた歯科医院にご相談ください。
次のような症状が見られる場合は、早めの相談を検討してよいでしょう。
- ズキズキと拍動するような強い痛みが続く
- 歯ぐきの腫れや、膿のようなものが出ている
- 鎮痛薬(痛み止め)を使用しても痛みが治まらない
- 1週間以上経っても痛みが引かない
痛み止めを飲み続けながら我慢してしまうと、受診のタイミングが遅れ、結果として治療が長引く場合もあります。
強い痛みや腫れのサインに気づいたら、無理をせず早めに相談することをおすすめします。
通院回数・期間の目安と、途中でやめないことの大切さ
根管治療は、根の数や感染の状態によって、複数回の通院が必要になることが多い治療です。
途中で痛みが和らいだとしても、自己判断で通院を中断すると根管内で細菌が再増殖して悪化し、最終的に抜歯を余儀なくされる恐れがあります。
治療完了までにどれくらいかかるのか、また、なぜ最後まで通うことが大切なのかを確認していきましょう。
治療回数・期間の目安(症例により異なる)
通院回数や治療期間は、根の数や形の複雑さ、感染の程度によって大きく異なるとされています。
根が細く曲がっている場合や、感染が広範囲に及んでいる場合は、より丁寧な清掃と消毒が必要となるため通院回数が多くなります。
具体的な回数や期間の見通しについては、実際の状態を確認したうえで歯科医師が説明することになります。
症状が治まっても、自己判断で中断しない
治療の途中で痛みが引いたとしても、それは治療が完了したことを意味するわけではありません。
根管内に細菌が残ったまま治療を中断すると、一時的に症状が落ち着いても再び感染が広がり、悪化する恐れがあります。
その結果、治療が長引くだけでなく、最終的に歯を残せなくなる可能性もあります。
根管充填、そして土台・被せ物までの一連の工程を終えて、はじめて治療がひとつの区切りを迎えます。
痛みが和らいだ段階で通院をやめず、歯科医師の指示に沿って最後まで治療を続けることが、歯を長く残すことにつながります。
よくある質問(FAQ)
Q. 「ピピピ」という音の電流は体に害はありませんか?
根管長測定器で使われる電流はごく微弱であり、人体への危険性や痛み・しびれはほとんどありません。ただし、心臓ペースメーカーなどの体内植込み型医療機器を使用している場合は誤作動を防ぐため、事前に必ず歯科医師へ申し出てください。
Q. 治療中に痛みを感じたら、どうすればよいですか?
麻酔をしていても、まれに痛みを感じることがあります。我慢せず、その場で歯科医師にその旨を伝えてください。状態に応じて追加の麻酔などの対応が検討されます。
Q. 治療と治療の間に仮の蓋(仮封)が取れてしまったらどうすればよいですか?
仮封が取れると、そこから細菌が入り込み、治療に影響が出る可能性があります。自己判断で様子を見ず、早めに治療を受けている歯科医院に連絡することをおすすめします。
Q. 神経を取ったはずなのに痛いのはなぜですか?
神経を取ったあとも、歯の周囲の組織に炎症が残っていたり、根管内に感染が残っていたりすると、痛みが出ることがあるとされています。痛みが続く場合は、感染根管治療などの追加処置が必要になることもあるため、歯科医院に相談してください。
Q. 「ピピピ」が鳴らない歯科医院もあるのですか?
根管長測定器の使用有無や機種は歯科医院によって異なるため、音の鳴り方や有無に違いが出ることがあります。音が鳴らないからといって、治療が適切に行われていないというわけではありません。
まとめ
根管治療中に聞こえる「ピピピ」という音は、根管長測定器(EMR)が根の長さを測り、器具の先が根の先端に近づいたことを知らせる合図であり、危険な処置のサインではありません。
使用される電流もごく微弱であり、安全面に十分配慮されています。
音は根管の清掃・拡大と長さの測定を行う工程で鳴るものであり、治療の流れをあらかじめ理解しておくことで不安の解消につながります。
治療中・治療後の痛みは、麻酔や時間の経過とともに落ち着いていくことが多いですが、これらはあくまで一般的な目安であり、症例によって経過は異なります。
強い痛みや腫れが続く場合や通院の中断を考えた場合は、自己判断せずに歯科医師へ相談し、指示に従って治療を完了させることが大切です。
参考文献
- [1] 厚生労働省 e-ヘルスネット「う蝕」 (https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/keywords/caries.html)
- [2] 日本歯内療法学会「歯内療法とは:一般の皆さま」 (https://jea-endo.or.jp/public/about.html)
- [3] 日本歯内療法学会「歯内療法診療ガイドライン」 (https://jea-endo.or.jp/materials/pdf/guideline2020.pdf)
- [4] 日本歯科医師会 テーマパーク8020「むし歯」 (https://www.jda.or.jp/park/trouble/index02.html)
監修者情報
アムール歯科新宿 院長
森戸珠美(もりと たまみ)歯科医師
略歴
- 1999年3月、都立八王子東高校卒業後、鶴見大学歯学部に入学。2005年卒業後、同大学歯学部付属病院の総合歯科・保存科に勤務し、う蝕(むし歯)・歯周病治療を専門に研鑽を積む。
- 2007年に医療法人社団真歯会理事に就任。
- やなぎさわ歯科クリニック、高月病院、常盤矯正歯科医院、昭島デンタルクリニックでの勤務を経て、アムール歯科新宿の院長に就任。一般歯科の臨床経験を基盤に、保存修復・歯周病治療を担当している。
- 医師紹介ページ
- https://amour-d.com/doctor/
